読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

●開智望小学校 学校だより 8 教科融合型テーマの教育上の意義

教育観
開智望小の学びは、教科融合型テーマの探究の単元、算数・国語・生活・道徳・体育・音楽・図工・Art・Music・英語活動の教科領域の学び(英語活動以外は、学習指導要領に基づいています)、運動会、開智望祭、開智望発表会等のイベントや行事、年間を通したプロジェクト学習から構成されています。

今回から、これらの学びについて説明していきますが、最初に、他校にはない「教科融合型テーマによる探究の単元」から説明いたします。

まず、国際バカロレア初等教育プログラムにおける「教科融合型テーマ」というものについて説明しておきたいと存じます。
「教科融合型テーマ」による探究単元というと、各教科が重要になってきます。各教科の学びを、「学習指導要領」の内容と「標準時間」を確保して、しっかり行うというのが、開智望小学校の考え方です。そこのところをご承知おきいただきたく存じます。

●教科融合型テーマの教育上の意義

「教科融合型のテーマ」の教育上の意義について、「Making the PYP happen」(国際バカロレアの、初等教育プログラムに関する公式文書)では、次のように述べています。

「一連の、相互に関連を持たない諸教科領域において児童・生徒を教育することは、それが必要であったとしても、不十分であると見なされている。諸教科領域を結ぶ技能を獲得することの必要性、児童・生徒たちにとって重要な問題とされる内容を探究する必要性、そして、伝統的な諸教科の境界を越えることは、すべて同じくらい重要である。『真に教育されることとは、児童・生徒が各教科を横に関連付けなければならないことでもあるし、分離された教科を統合する方法を発見することでもあるし、また、人生にとって何を学ぶかということと根本的に関わることでもある』(ボイヤー1995)。」

アーネスト・ルロイ・ボイヤー氏とは、ニューヨーク州立大学長、米国連邦政府教育長官、カーネギー教育振興財団の会長を歴任したかたです。
かれは、「研究大学における学部学生教育に関するボイヤー委員会」に於いて、大学の教養と専門研究との関係とそのあり方を提案しましたが、それが、21世紀の教育において大変重要に意義を持っていることはいうまでもありませんよね。
科学技術の発展が、世界を、社会を、地球を大きく変えています。グローバル化・ICT化・資源問題・環境問題など、かつて人類が経験したことのない大きな変化です。こうした前例のまったくない、新しい課題や問題に対応するために、未来の大人、すなわち、今の子どもたちは、新しい智を創造する力を持たなければなりません。

ボイヤー氏の考えの「真に教育されることとは、児童・生徒が各教科を横に関連付けなければならないことでもあるし、分離された教科を統合する方法を発見することでもある・・・」というのは、そうした力を育成することを目的とするものです。
「教科融合型のテーマ」は、まさしく、「諸教科領域を結ぶ技能を獲得することの必要性、児童・生徒たちにとって重要な問題とされる内容を探究する必要性、そして、伝統的な諸教科の境界を越えること」につながるテーマなんです。言い換えると、児童・生徒に教科の境界を越えるための技術を持たせるために、人類の経験を凝縮したテーマを探究することが必要であるということですね。そして、このテーマに取り組むことにより、子どもたちは、新しい智を創造する力を伸ばしいくんです。

こういうと、日本の教育ではこんなことを考えてこなかったため、違和感をお持ちになる方々も多いでしょう。日本の大学受験に役に立たないんじゃないですか、とお思いになる向きもいらっしゃるでしょうな。でも、世界では、こういう方向に教育が動いているんですよ。
日本の文科省も、かなりあせっているようで、2018年度には、国際バカロレアのディプロマ・プログラム(高2・高3対象)を導入する教育機関を200校にするという計画を打ち出しました。2013年5月28日に開かれた教育再生実行会議の三次提言「これからの大学教育等の在り方について」では、「国は、国際バカロレア認定校について、一部日本語によるディプロマ・プログラムの開発・導入を進め、大幅な増加(16校→200校)を図る。」と提言しています。

この計画は、ディプロマ・プログラムの第二言語(外国語)以外は、全部日本語で履修できるようにするという計画と並行していますので、目的はおそらく、外国に留学する学生を増やすということよりも、日本の教育を世界水準に近づけることにあると考えられます。これは、戦後の教育の最も大きな変化になるのではないかと思います。
また、昨年9月30日に決定した、スーパーグローバル大学創設支援の、東大をはじめとするタイプAトップ型13大学は、国際バカロレアのディプロマ・スコアを持っている学生の優先的な受け入れを行う方針です。

●教科融合型テーマの内容
国際バカロレア初等教育プログラムの探究の単元で用いる「教科融合型テーマ」は次のようなものです。ご覧になって、その抽象性に驚くかもしれませんが、ご安心ください。実際は、このテーマを、子どもたちの知的な発達と、学年で学ぶ教科の内容とを加味して具体化し、なおかつ、子どもたちにとって、強い関心を持てるもの、そして、多少挑戦的なもの(うまいこと、「最近接領域」となりそうなテーマ)に具体化したもの(これを「セントラル・アイデア」と言います)を探究します。このセントラル・アイデアについては、近々お話したいと考えていいます。


・PYP transdisciplinary themes

Who we are 
私たち自身の本性(本質)の探究、すなわち、思想と価値観・個人的・身体的・知的・社会的・精神的健康、家族・友人・共同体・そして文化を含む人間関係、権利と義務、人間であることの意味するものの探究。

Where we are in place and time 
時間的かつ空間的な定位(位置づけ)の探究、すなわち、自分史、帰るべきところとその旅程、人類のなした発見や探検と移動、地域及び地球規模の観点から見た個人と文明の関係や相関関係の探究。

How we express ourselves
観念や知覚や本質や文化や思想や価値観を私達が発見し説明するための方法、私達の省察(熟考)し、創造力を伸ばす方法と創造を楽しむ方法、私達の美的感覚の観賞力の探究。

How the world works
自然界とその法則、自然界(物理的・生物的)と人間社会の交互作用、科学的理論の英智の用い方、科学や技術の発展が社会や環境に与える影響の探究。

How we organize ourselves
人間が作った仕組みと共同体との相関関係、組織の構造や機能、社会的な意思決定作用、経済活動とそれが人類や環境に及ぼす影響についての探究

sharing the planet
限りある資源を他の人々や生命あるものと共有するための模索(struggle)における権利と義務、共同体及び共同体内の関係と共同体間の関係、機会均等の権利、平和と紛争解決の探究。

 すべてのテーマが、古来より人類が取り組み、格闘してきた普遍的なテーマであることはおわかりでしょう。自己についての智から、社会についての智、自然についての智、さらには、実践的な智にまでわたっています。
これらのテーマが子どもたちにとってどういう意義をもっているかについて、「Making the PYP happen」では、次のように述べています。
「これらのテーマは、すべての文化におけるすべての児童・生徒にとってグローバルな重要性を持つ。」「これらのテーマは、児童・生徒に、人類の経験の共有物を探究する機会を提供する。」
これらのテーマは、子どもたちが、いわば人類の叡智について考える機会を与えるものなのですな。そして、その叡智をグローバルな問題の理解や解決に向けていく機会ともなるわけです。


さて、ご覧になってのとおり、それぞれのテーマは、一教科の射程内に収まるものではありません。たとえば、「Where we are in place and time」は、風土との関係がありますが、それだけでは捉えきれない問題ですよね。風土との関係からのみ見ていたら、ローカルやナショナルの枠を超えたもっと広いグローバルな見地から「私たちの地理的・歴史的定位」を捉えることはできなくなります。和辻哲朗が陥った陥穽に、私たちも陥ることに成ります。ひろく、世界との関係で捉えなければならないし、生物学的にも考えなくてはならない問題でしょう。そうなると理科も関わってきます。場合によっては数学的なアプローチも必要になってきます。さらに、文化・言語・芸術(図工)にもかかわりがあります。
これと同様、そのほか六つのテーマもすべて、一つの教科で理解できるものではなく、古来よりあらゆる教科が動員されて考えられてきた「人類の共有する問題」です。

実際は、前述したように、子どもたちの知的な発達と、学年で学ぶ教科の内容とを加味して具体化し、なおかつ、子どもたちにとって、強い関心を持てるもの、そして、多少挑戦的なものに具体化したもの「セントラル・アイデア」を探究します。
この場合も同様です。たとえば、二年生の、第二回の探究の教科融合型テーマは「How the world works」です。それを「セントラル・アイデア」に具体化すると「小さな生き物の中に、大きな仕組みがある。」となります。この「セントラル・アイデア」の探究を通して「自然界とその法則、自然界(物理的・生物的)と人間社会の交互作用、科学的理論の英智の用い方、科学や技術の発展が社会や環境に与える影響の探究」の中の、「「自然界とその法則、自然界(物理的・生物的)と人間社会の交互作用」についての智を獲得する探究を行うわけですが、この探究には、昆虫の成長・変態・生殖・遺伝・生態といった小3や小5で学ぶ理科の知識を先取りして用いるだけではなく、「ファーブル昆虫記」や「シートン動物記」などの記録文章の読みといった国語の授業、あるいは、人間と昆虫等の関わりといった社会科的な分野も関係してきますし、価値観なども関わってきます。

●ディプロマのTOKとの関係
国際バカロレアの公式文章である「『知の理論』(TOK) 指導の手引き」の「知の理論の学習」には、次のように書かれています。
「TOKでは、さまざまな『知識の領域』の間の つながりを重視し、また、『知識の領域』と知ることの主体者である『知る人』とのつながりを示していきます。TOKの目的は、そのような活動によって、『知る人』しての生徒 が、自分なりのものの見方や、自分と知識を共有しているさまざまなグループのものの見 方を自覚できるよう促していくことにあります。このためTOKでは、『個人的な知識』と、『共有された知識』の両方を探究し、この二者の関係を考察します。」

 ディプロマ・プログラムの、いわば中核に相当するものが「TOK(知の理論)」です。二年間で最低100時間以上履修しなければなりませんが、これに直結しているのが、教科融合の六つの探究テーマであり、その学びです。
 日本では教科の枠を超えた学びが十分ではありません。そのため、いくら国際バカロレアのディプロマ・プログラムを高校に導入しようとしても、そのカリキュラムを履修できる能力を持った生徒がたぶんあまり多くないでしょう。その能力は、英語力ではありません。教科の枠を超えて、教科を繋ぎ、「問題」を考えることのできる能力です。

 では、その能力とは何か。それがConcepts based learningといわれる批判的な思考力と、シンキングスキル、リサーチスキル、コミュニケーションスキル、ソーシャルスキル、セルフマネージメントスキルなのですが、これらについては、次回以降で説明いたします。