【コーディネーター通信】教科の枠を超えた探究のUNIT4が始まります。

二年生の探究を例にいたします。

 

ヒトは太古、火を恐れていたんでしょうな。「いたんでしょうな」というのは、考古学的に考証できませんので、こういうしかないのですが。そのころ、ヒトは自然の一部でしかなく、ヒト自身が、自分と自然とを区別していなかったでしょうな。自然の「気分」しだいによって、ヒトは生きもするし死にもする。そんなような存在だったでしょう。

山火事を見て、恐れおののき、山の噴火を見て、洞窟に逃げ込んでいたんでしょうな。

ところが、ある時、山火事で焼けた森林真中で、焼けた動物の肉を食したら、美味かったという体験や、偶然手に入れた火により暖をとることが出来たという体験などから、火の必要性を痛感していったのでしょう。

最初は、落雷や噴火などで起こった山火事から手に入れた火を大切に守って使っていたのでしょうな。おそらく強い風で揺れ、擦れあった木々の枝から火が起こったことなどを目撃し、実際に自分たちが木々の枝を擦って火を起こす方法を考え出していったんでしょうな。何世代もにわたり、たくさんの失敗をしながら、繰り返し、繰り返し試みたんでしょう。

そして、おそらく旧石器時代の早い時期には、火を使うようになっていたようです。

 火を使うことによってヒトの生活は一変したでしょうな。火を調理に使うようになり、暖を取るようになり、獣から身を守るのに使うようになり、それによりヒトは、どんどん増えていったでしょうな。ヒトの社会も以前とは違う形になったでしょうし、摂取する食事も変化したでしょうから、それに伴ってヒトの体も変わっていったことでしょう。いままで住むことが出来ないような寒冷地にも住むことが出来るようになり、大移動を容易にしたことでしょう。

 そして、暗黒の自然は、火によって照らされ、次第にその正体が捉えられるようになれました。ヒトは、自然を恐れ、火を恐れ、森の片隅でうずくまっている存在ではなくなりました。火によって科学を手にし、自然の支配者になることもできるようになったんでしょうな。

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こうして火に代表される知恵を手にしたヒトは、それを逆手に用いて、様々な分野で、自然の猛威を屈服させ、その猛威を利用し始めることになりますぞ。あたかも、荒れ狂う一つ目の海獣キクリプスを、奸計を用いて屈服させたオデッセイウスのように。

 そして、そのために科学は発展していきます。古代のエジプトでは、ナイル川の氾濫を予知し、ナイル川の猛威を人のために利用しようとする。そのためには、氾濫の時期を予知しなければならない。氾濫の時期と天体の運動には相関関係がある。自然の観察によってそこに気づいていた古代エジプト人たちは、天体の観測を開始しました。それは精緻を極め、天文学幾何学が発達していきました。

 

 18世紀半ば、アメリカでは、嵐の中で凧を挙げている一人の男がいました。ベンジャミン・フランクリンです。手元にはガラス瓶があり、内側には鎖がぶら下がり、その下端には金属の玉がぶら下がっていました。ライデン瓶です。人々が恐れおののく雷の正体を探究しているんです。そして、雷の電気にもプラスとマイナスがあることが発見され、それをもとに避雷針が発明され、人々の生活に安全をもたらしました。

 

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ベンジャミン・フランクリン

雷の正体は静電気であることが分かったんですが、この静電気は、科学の最先端の量子の実験で用いられる「加速器」や「はやぶさ」のイオン・エンジン、身近なところでは、自動車の塗装などに用いられ、私たちの生活と関わっています。

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加速器の内部

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筑波の高エネルギー加速器

 

 

 人類の歴史や、科学のような大げさな話だけではなく、もっと身近なことにも、目を移してみましょう。

 「雪」。豪雪地帯では、雪崩を発生させ、人々を家の中に閉じ込め、交通を遮断する「雪」。雪国の人々にとって、もう本当に嫌になる「雪」。私なぞ、雪国とはとてもいえない長野の生まれですが、「雪かき」は本当に嫌でした。早朝、雪かきをしたと思えは、もう、学校に行く頃は、雪が積もりまくっている。バスは遅れる、遅刻はする。・・・・

 その「雪」も性質を熟知することによって、逆に生活の糧として利用することが出来る。国の重要無形文化財になっている「小千谷縮」。夏の高級織物です。

 

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小千谷縮

 

これが、雪を利用しているんです。「縮」を雪にさらすと白く美しくなります。実は、漂白剤と同じくオゾンの効果なのですが、オゾン漂白剤とは違って生地を傷めないし、かえって強くすんです。それが、雪国のよく晴れた日、紫外線と行くとの相互作用で発生するんです。それを活用して「小千谷縮」を作っているんです。そういうことを、豪雪地帯で生活している北越魚沼市の人々は、経験から学び取っていたんですね。

 

北越雪譜」の作者の鈴木牧之は、小千谷の「縮」問屋の主人でもありました。

 

さて、こう考えていくと、「自然の脅威」を「恩恵」に変えていくためには、どんなことが必要かわかってきます。ただ恐れおののいていてもだめですし、己の運命を呪っているだけでもダメなんですね。「より豊かになりたい」「みんなの生活をすこしでもよくしよう」という強い願望、失敗を繰り返してもくじけない強い意志、観察・仮説・実験・記録・振り返りを生まずたゆまず繰り返していく計画性とスキル、そして、「実体」を明らかにしないとおさまらない科学的精神。こういう「知識」を探究を通して獲得出来たら、それは、将来、たいへん意義のあるものになるでしょう。

 

こういうことを探究するには、Form Causation Reflectionという「概念」を用いる必要があります。参考までにそれぞれがどのようなものなのかを、Making the PYP happenから引用いたします。

 

Form・・・形体

Key concept question・・・What is it like?

これはどのようなものか?(外観)

Definition ・・・The understanding that everything has a form with recognizable features that can be observed, identified, described and categorized.

一切のものは、観察され、認識され、その特徴を説明され、分類されうるような、見てわかる特徴をもった一つの形態を持っているという了解。

Rationale・・・This concept was selected because the ability to observe, identify, describe and categorize is fundamental to human learning within and across all disciplines.

この概念は次のような理由で選ばれた。観察し、認識し、説明し(特徴を述べ)、分類する能力は、すべての教科の内にあると同時に教科を横断する、人間の学びの基礎であるということから、この概念を取り上げた。

Causation・・・因果関係

Key concept question・・・Why is it like it is?

   なぜ、これはこのようなものなのか?

Definition ・・・The understanding that things do not just happen, that there are causal relationships at work, and that actions have consequences.

事物は、今まさに起こっているのではなく(直接的に存在しているのではなく)、そこには働いている因果関係がある、あるいは、作用は結果(影響)を生むという了解。

Rationale・・・This concept was selected because of the importance of prompting students to ask “Why?” and of helping them to recognize that actions and events have reasons and consequences. The analysis of causal relationships is significant within and across all disciplines.

児童・生徒に「なぜ」と問わせるよう誘導することの重要性、児童・生徒が、作用と出来事には原因と結果があるということを認識することを促すことの重要性からこの概念を取り上げた。因果関係の分析は、すべての教科の内に於いても、教科を横につなぐ上でも重要である。

Perspective・・・観点

Key question・・・ What are the points of view?

観点とはなにか?

Definition・・・The understanding that knowledge is moderated by perspectives; different perspectives lead to different interpretations, understandings and findings; perspectives may be individual, group, cultural or disciplinary.

知識は、観点によって規定されるという了解。異なる観点は、異なる解釈、異なる理解、異なる発見につながる。観点は、個人的、集団的、文化的、あるいは、教科的である。

Rationale・・・This concept was selected because of the compelling need to develop in students the disposition towards rejecting simplistic, biased interpretations, towards seeking and considering the points of view of others, and towards developing defensible interpretations.

児童・生徒の、単純化の拒絶に向かう気質の―これは(ものの)解釈に基づいている―、他の観点を探し求め、深く考えることに向かう気質の、そして、正当と認められる解釈の発展に向かう気質の開発のやむにやまれぬ必要性から、この概念を取り上げた。

 

 

私は、こうした概念を用いて、子どもたちがたいへん面白い探究活動を行い、深い知識(知恵)を獲得し、成長していくことを願ってやみません。